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目次
「折衝」の意味や由来は?
ビジネスにおいて「相手と話し会う」という意味で用いられる言葉に、「折衝(せっしょう)」があります。
「折衝」の意味は、「有利に事が運ぶように、相手と駆け引きすること」です。
特に、ビジネスシーンでは「ある目的を達成するために相反する意見や要望を持つ相手と話し合い、有利になるように上手く折り合いをつけること」を指します。
また、「折衝」にはきちんとした由来も存在します。
ここではまずその由来について、詳しく見ていきましょう。
「折衝」の由来
「折衝」の原義は、「敵の衝いてくる矛先を折ること」で、元々は中国の『晏子春秋(あんししゅんじゅう)』と呼ばれる古典から生まれました。
作中では斉の宰相「晏子」が外交で手腕を振るっていたのですが、それを聞いた孔子が「敵の矛先を折るのはまさに晏子の腕前」と評したことに由来しています。
「折」と「衝」という漢字には「折(お)る」と「衝(つ)く」という意味がありますから、そのイメージが想像しやすいですよね。
また、「折衝」は「戦い」に由来した言葉であることから、そこでの話し合いが決して簡単なものではないことも想像できるでしょう。
「折衝」の出典である「晏子春秋」について
「折衝」の由来となった「晏子春秋」とはどのような書物なのか、簡単に紹介していきましょう。
「晏子春秋」は、中国春秋時代の斉において、霊公 、荘公、景公の3代に仕え宰相となった「晏子」に関する言行録をまとめたものです
その内容は内篇6巻および外篇2巻の計8巻、全215章で構成されています。
この「晏子春秋」は「折衝」を含む22の故事成語の出典にもなっており、後世に与えた影響は非常に大きいです。
代表的なものには、「羊頭狗肉(見かけと実物が違うこと、見掛け倒しなこと)」の語源・由来となった「牛首馬肉」が挙げられます。
「折衝」の具体的な使い方
では、「折衝」という言葉は実際にはどのような使い方をするのでしょうか。
ここからは「折衝」の使い方について詳しく見ていきましょう。
「折衝」は外交や政治で用いられる言葉
「折衝」は、複雑な交渉をする場面で用いる言葉であり、簡単な話し合いに対しては使われません。
具体的には、利害関係が一致しない相手との話し合いを指し、国家同士など外交的・政治的な公の場面で用いられます。
したがって、個人同士の話し合いの場において「折衝」という言葉を使うのは適切ではありません。
ビジネスにおける「折衝」
しかしながら、必ずしも外交や政治の場面で用いられるかといえば、答えは「NO」です。
「折衝」は、ビジネスにおけるコミュニケーションでもしばしば使う言葉だといえるでしょう。
というのも、ビジネスシーンでは取引先や顧客はもちろん、社内の部署同士でも利害が一致しない場面があるからです。
当然、折り合いをつける必要のない簡単な打ち合わせや商談などには使用できないので、この点に注意してください。
「折衝」が使えるのはあくまで相手と駆け引きをおこない、妥協点を見つけていく話し合いに対してのみです。
「折衝」を用いた代表的な表現4選
ビジネス用語には、「折衝」を含んだ熟語が数多く存在します。
ここでは代表的なものをいくつか確認していきましょう。
顧客折衝(こきゃくせっしょう)
「顧客折衝(こきゃくせっしょう)」とは、「顧客と利害が一致しない状況の中で、問題や課題を解決するために折り合いをつけること」を指す言葉です。
顧客折衝における「問題」や「課題」は、主に見積りの内容や納期に関することを指します。
対人折衝力(たいじんせっしょうりょく)
「対人折衝力(たいじんせっしょうりょく)」とは、「誰かに対して物事が有利に運ぶように駆け引きをする能力」を指します。
対人折衝力がない人は、仕事における交渉事や人間関係が上手くいかないことが多いです。
逆にこの能力がある人は、公私において特に親密でない人とも良好な関係が築けます。
折衝役(せっしょうやく)
「折衝役(せっしょうやく)」とは、外部とのやり取りをする担当を指す言葉です。
類語としては、「窓口役」「窓口」「交渉役」などが挙げられます。
折衝業務(せっしょうぎょうむ)
「折衝業務(せっしょうぎょうむ)」とは、新規・既存を問わず「顧客と価格、品質、納期など様々な問題について折り合いをつける業務」を指します。
こちらは求人などでもよく目にする言葉ですよね。
しかし、一口に「折衝業務」といっても、企業によって業務内容の詳細が異なるので注意しましょう。
「折衝」を使った例文を【対象別】【場面別】に紹介
「折衝」の意味や由来について理解が深まったところで、実際にどのような文章で用いるのかを例文で見ていきましょう。
【対象別】「折衝」を使った例文
ビジネスにおける「折衝」は、取引先や顧客との問題に対して使う場合と、社内における問題に対して使う場合があります。
また、折衝する対象を限定しない「折衝力」という言葉もあるので、それぞれの例文を確認しましょう。
折衝する対象 | 例文 |
---|---|
顧客・取引先 | ・明日は14:00から税務当局との折衝です。 ・A社との折衝に関して、何かアドバイスをいただけますでしょうか。 ・折衝が失敗した理由は、訪問回数が少なかったからだ。 |
社内 | ・各部門と折衝した結果をご報告致します。 ・その件につきましては、現在社内各部署と折衝中です。 |
全般 | ・折衝力の有無には、人間力の有無も関係している。 |
【場面別】「折衝」を使った例文
先ほども説明意した通り、「折衝」は外交手腕を戦いに例えたことに由来していますが、現代ではどのような場面で使われているのでしょうか。
よく使われる場面別に例文を挙げます。
使い方 | 場面の具体例 | 例文 |
---|---|---|
会見 | 大臣の記者会見 | ・関係諸国と折衝をおこなって参りました。 ・社会保障関係費などについて折衝をおこなって参りました。 |
報道 | 東京五輪のニュース | ・国際オリンピック委員会と大会組織委員会による事務折衝が始まりました。 ・この事務折衝は、東京五輪に向けて、IOCと組織委員会が定期的に準備状況を確認するものです。 |
報告 | 労働組合の活動報告 | ・各関係部署と事務折衝を実施しました。 ・事務折衝でのやり取りを一部ご紹介致します。 |
業務案内 | 税理士事務所の業務案内 | ・あなたの代わりに税務当局との折衝に当たります。 ・税務署との事務折衝をサポートします。 |
「折衝」と「交渉」との違い
「折衝」と似たような意味で用いられる言葉に「交渉」があります。
「交渉」も相手との駆け引きや話し合いの際によく使われますが、実際は「折衝」と意味が異なるので注意しましょう。
「交渉」の意味
漢字 | 読み仮名 | 意味 |
---|---|---|
交渉 | こうしょう | ・相手と話し合いをして、取り決めようとすること。かけあうこと。 ・かかわりあいを持つこと。関係。付き合い。 |
「交渉」は上記のように、「ある事柄を実現させるために、相手と話し合うこと」を意味します
どちらかというと、「お互いが納得することを目標に話し合うこと」というニュアンスを持っていますね。
「折衝」と「交渉」の使い分け
「折衝」と「交渉」の大きな違いは、「利害関係が一致しているか否か」にあります。
「折衝」は主に利害関係が一致していない相手との話し合いを表しますが、それに対し「交渉」は利害関係が一致しているか否かを問いません。
「折衝」は「こちらの目標のために相手を妥協させる」という意味を持っていますが、「交渉」には「お互いが納得できるよう話し合う」というニュアンスがあるからです。
また、国家間や企業間での話し合いに用いられる「折衝」とは異なり、「交渉」は個人同士の掛け合いにも使われます。
だからこそ、「折衝」に比べて日常会話でも耳にする機会が多いのですね。
「折衝」の類語とその意味の違い
ここまで「折衝」の使い方や由来について見てきましたが、最後に「折衝」の類語にはどのようなものがあるのかを確認しましょう。
前章で紹介した「交渉」も「折衝」の類語に当たりますが、他にもいくつか同様の表現があります。
駆け引き・相手の出方に応じて、自分に有利になるようことを運ぶこと。掛け合う・要求について相手側と話し合うこと。会商・集まって話し合うこと。
類語 | 意味 |
---|---|
談判 | ・事件やもめごとに決着をつけるために、相手方と話し合うこと。 |
取引 | ・契約や合意などの下に、金品や事柄をやり取りすること。 ・互いの利益のために双方の主張を取り入れあって妥協すること。 |
以上が「折衝」の主な類語です。
では、これらの類語表現について詳しく見ていきましょう。
「駆け引き」
紹介した類語の中で、最も「折衝」と意味が近いように感じるのが「駆け引き」でしょう。
「折衝」と「駆け引き」は、「自分に有利になるように事を運ぶ」という点では意味が同じです。
しかし、「駆け引き」は半ばゲーム感覚で相手の考えていることを推測したり、相手を説得したりする特徴があります。
また、「恋の駆け引き」といった言葉がある通り、「駆け引き」は日常会話でも多用される言葉です。
「駆け引き」の由来は戦場用語
「駆け引き」は「折衝」と同様に由来があるのですが、実はその由来が「戦い」である点も共通しています。
元々、「駆け引き」とは戦場における作戦用語で、「隊の進退のタイミングをはかる」という意味がありました。
「駆け引き」の「駆け」は馬に乗って駆けることから敵に向かって攻め進むことを、「引き」は馬の手綱を引くことから退却を意味します。
ちなみに、「駆け引き」が現在のように商売や交渉で用いられるようになったのは、江戸時代以降からです。
談判
「談判」も「交渉」を意味する言葉ですが、こちらは話し合いの前提に必ず「揉め事」や「事件」が存在します。
「折衝」も相反する意見や要望を持つ相手と話し合う点では同様ですが、そこに「揉め事」や「事件」があるとは限りません。
したがって、明らかな「揉め事」や「事件」を前提とした話し合いの場合は、「談判」を使うのが適切です。
掛け合う
「掛け合う」は「要求について話し合う」という意味であり、ビジネスシーンだけでなく日常会話でも使える言葉です。
例えば、「家賃について大家と掛け合う」といった場合、借主はもう少し家賃を下げてほしいと感じていることが想像できますよね。
したがって、借主は大家になんとか家賃を下げてもらえないか説得しなければなりません。
このように「~について○○と掛け合う」という表現は、「~について○○を説得する」に近いニュアンスで使える便利なフレーズです。
取引
「取引」は主にビジネスにおいて使用される言葉です。
「取引」の間には必ず「契約」や「合意」といったフォーマルなニュアンスが存在します。
そのため、友達や家族、恋人同士といったカジュアルなシーンではあまり使われません。
「取引状況」や「取引先」など、ビジネスにおいてこの「取引」という言葉は頻出するので、しっかり覚えておきましょう。
会商
「会商」は「折衝」と異なり、「自分にとって有利な方向へと物事が運ぶようにする」といった条件がありません。
実は、「会商」とはただ集まって相談したり、話し合うことに対して使う言葉なのです。
「折衝」は英語だと「negotiation(ネゴシエーション)」
一般的に、「negotiation(ネゴシエーション)」は「交渉」という意味で翻訳されることが多いですが、実は「折衝」という意味も含まれています。
例えば、人質事件における犯人との交渉役を俗に「ネゴシエーター(negotiator)」と呼びますよね。
「negotiation」が指す「交渉」は、必ずしも対等な者同士だけでなく、お互いの立場や意見がまったく噛み合わない状況での話し合いも含まれているのです。
「negotiation」の語源
「negotiation(ネゴシエーション)」は否定を表す「nego」に、暇を意味する「otium」が加わった英単語です。
この「otium」は元々はラテン語なのですが、なぜここで暇という言葉が出てくるのか疑問に感じる方もいるでしょう。
そもそも、「暇ではない」ということは「何らかの仕事やビジネスをおこなっている」ということを意味します。
そして、ビジネスにはあらゆる障壁がつきものですから、そういった困難に取り組むことが「相手との交渉」という意味へと発展したのですね。
「negotiation」の例文
- The union and management negotiated for three hours straight.(労働組合と経営陣は3時間にわたって折衝した)
- The matter is now under negotiations.(事件は現在折衝中だ)
上司との会話に「折衝」を取り入れよう
今回は「折衝」という言葉の由来や使い方について詳しく見てきました。
「交渉」などに比べると日頃あまり耳にしない言葉なので、使いこなすのがなかなか難しく感じてしまうことでしょう。
しかし、仮に難しい言葉でもその由来を知れば、意味やニュアンスが理解しやすくなります。
とはいえ、こちらが言葉の意味を知っていても相手が知らなければ当然通じません。
「折衝」を使う場合は、相手がどのような人物かも考慮に入れましょう。